ある夜
どんな男性も私の前では圧倒的に紳士である。
と、私は思ってる。
たまたま紳士な男性しか周りに存在してないのかもしれないけれど、みんな一様に優しく丁寧で、ほどよく残酷である。
いろんな感情が渦巻いては消える一年だけれど、タイミングというのは本当にあるものだなと思った。
少なからず今より自暴自棄になっていた数ヶ月前に、この人と再会していたら、もっと破滅的な事をしていたかもしれないし、あるいは全く何もなかったかもしれない。
再会するのは【その日】でよかったのだと思う。
我々もすっかり大人なので、みんな何かしら事情を抱えていて、彼も独身で彼女なしとはいえ事情があるし、私も彼の知らない事情がある。
私はどうしても【上書き】をしたかった。
上書きの必要があると感じていて、その上書きにちょうどいい相手をずっと探していた。
あの夜、私は彼を利用した。
忘れる事の出来ない記憶や感覚を少しだけ薄めて欲しいだけだった。好いた惚れたという感情を一切排除して、ただ単純にあの人じゃない人とキスだけがしてみたかった。
そして、彼は本当にちょうど良かった。
帰り道に、あなたを利用しちゃったわ、ごめんね。と告白すると、彼は笑って
「そういう事を素直に言えるのは可愛いね。」
と、深くは聞かずに頭をポンポンしてくれた。
俺は構わないよ、全然。と。
当たり前だけれど、好きな人とキスする方が圧倒的に気持ちがいい。
上手いとか下手とかではなく、沁み入るものが全く違うんだなと思った。
男性は往々にして紳士で、抱きしめられると優しく丁寧で温かく、抱きしめるとただただ可愛く、愛おしい。
好きであれば尚更に。